スタッフレポート|サイセイ展を終えて

EVENT / 2023.07.19

2023年2月4日から4月22日までの約3か月間、青山のプリズミックギャラリーにて再生建築研究所はじめての展覧会を開催しました。
その名も「サイセイ展」。
開催に至る経緯や展示内容について、振り返りました。

 

サイセイ展
会 期|2023年2月9日 ~ 4月22日
場 所|プリズミックギャラリー
対 談|建築家 中山英之氏 × 法律家 水野祐氏 (2023年4月9日 ミナガワビレッジにて開催)

 

 

総括

 再生建築の語り方については社内でも度々議論になる。技術を語るべきか、デザインを語るべきか、仕組みを語るべきか。しかしどれを切り取っても、再生建築研究所でこれまでやってきたことや、これからやっていきたいことを表すには不十分だと一同感じていた。
また各プロジェクトは一見ばらばらな特殊解のようでありながら、実は通底している思考や技術は共通でシンプルであったりもする。再生建築が実はもっと世の中の一般解になり得るのだということを、知って欲しいという想いがあった。
その結果、再生建築の断片的なアイデア(技術、デザイン、仕組みなど)をピックアップしながら、まぜこぜに並べたような展示となった。

 展示方法を検討するにあたり、共通項を捉えるためにそれぞれが持つ要素を整理し、並べて、俯瞰して見ることなども行った。名も知らぬ人達が人知れずつくりあげたデザインや思い出話、それらを愛する人たち、社会構造や権力、法律、物理や科学的なこと、など要素は多岐にわたる。これらの雑多な状態に向き合い、整えることが、日々私たちが手と頭を動かしていることの大半であり、「繋げる」という作業が私たちが目指す再生建築においてとても大切であることに、サイセイ展を通して改めて気づかされた。

 そして今回サイセイ展と名付けて展示会を行ったのは、再生建築研究所がただただ適法化や耐震化を行う「もの」作りだけでなく、関係する人たちとそのまわりに存在する「こと」や仕組みまで関わっていくといった、次のステップへと進むことへの意思表明でもあった。それは中山氏水野氏との対談を通してより確信的なものになったと感じる。

(黒川・谷重)

 

 

模型群について

 

 模型展示では建築の正しさによって生み出された再生が都市、土地、建築にどのような影響を与え、さらにそれらの意匠、構造、環境に対してどのように還元されているのかを表現することを試みた。当初はより具体的な模型で詳細な補強や空間を見せることなども試行したが、最終的には白模型とし、再生によって生み出された特殊な空間や補強を着色することとした。端的に色で可視化することで再生という建築の特殊解を示しながらも、敷地や既存、周辺は素材感を持った白で抽象的に表現することで、再生という特殊解がおおらかに周辺と繋がっていく様を表現した。
 本展示には新築プロジェクトも含まれており、我々が再生をどのように概念的に捉え、再生でないものに昇華させているかも表現している。敷地における歴史、特性の抽出から、竣工後における建築の可変性や冗長性を再生というフィルターを介して、プロジェクトに組み込むことを目指している。

 

 

神田錦町オフィスビル再生計画

2022年5月竣工

 

 本計画は「減築」により適法化し、建物と周辺の公開空地、双方の価値を高め、新たな公共性を生み出すファサードをつくることを試みた。両隣の建物と同様にセットバックした位置まで床面積を減築し、既存フレームはそのまま残すことで、セットバックさせた新しいファサードに既存フレームがオーバーレイした「厚みを持った表層」を計画した。この「厚みを持った表層」は建築に対しては北側採光を安定して取り込むライトウェルやビル風を建物内に循環させるウインドキャッチとして、都市に対しては共用空間として働く。模型では「厚みを持った表層」と隣接する通りを着色することで、建築と都市それぞれに対する接続とそれらをおおらかに繋ぐ本体を表現した。

 

 

 

大分の住宅プロジェクト

進行中

 

4人家族のための新築住宅の計画である。敷地は台地の縁と旧街道に隣接しており、高低差10mの起伏の大きい、自然の名残が感じられる住宅街である。近年見られる山の輪郭を削り合理的に建てられる中高層マンションとは異なり、斜面に対して背を向けず土地や斜面と切実に向き合いながら暮らすことのできる住宅を目指した。建築の構成としては道路に面した最低限住むためのRC造の建物と斜面に面した土を削ることを最低限に抑えた高床の建物、それらを繋ぎ地面を覆うようにかけた屋根の3つから構成されている。模型では建築としての床を規定する屋根を着色し、建築と地面を同じ質感のあるマテリアルとすることで、おおらかに覆われる空間と建築と地面の連続性を表現した。

 

 

BEPPU

別府エリア再生プロジェクト
2021年竣工

 

 新築のアマネク別府ホテルゆらり、ビジネスホテル再生のアマネクイン別府、商店街建築再生の旧エルザからなる「別府市街地活性化プロジェクト」では、我々は地域に常駐して設計監理を行った。その間、この3プロジェクトにとどまることなく、住宅兼店舗やラーメン店の設計業務を受注し設計活動としてエリアに広がりを見せるプロジェクトとなっている。
 今回の展示では、その設計内容それ自体よりも、我々が地域の方々ともコミュニケーションを取りながら行ったリサーチと、その内容を取りまとめた「サイセイジャーナル」を起点として制作した。戦前から続く木造密集地域という別府のまちなかは、絶えず緩やかでアドホックに更新が行われ、さながら生態系の様であった。
 八つのエリアに分かれた温泉市内には158の温泉公衆浴場があり、前述のような街並みの中には半裸のおじいさんが闊歩したりしている。生活の所作の中でも最もプライベートな行為である入浴が住宅の外でおこなわれることで、街全体にパブリックとプライベートが入り混じった状態。これが別府という街の状況を面白くしている。
 高揚感を持ちながら街に入り込み設計を進めるにあたり、代表の神本が「別府スケール」という言葉を発する。これがこの度別府の展示のタイトルにもなっている。

 

 

 

 当初は約300四方の正方形1つに対し1つのコンテンツを見せることを試みた。
 ギャラリーの壁面が白く塗装されていることから、それを1つのキャンバスとした表現を、加えて対面に設置される模型の対となるように、191.6×1500mm 紙間12mmという縦長の帯のような寸法の白紙の中でプロジェクトを表すこととした。近作の神田錦町オフィスビル再生計画からサイセイの根幹でもあるミナガワビレッジまで、弊社で取り組んできた様々な再生プロジェクトやその要素が、結果的に18本の帯となってキャンバスのような無垢な白い壁を彩った。

 帯は、大まかに下記の4種類のパターンにて構成した。

1.再生の部分

2.再生コンサルティング

3.再生の手法

4.再生の地図

 

1.再生の部分

 これらはいずれも、補強方法やディテールといった部分ではありつつも、それぞれのプロジェクトの全体をも規定している重要な部分として取り出している。

 

2.再生コンサルティング

 再生建築の場合、現行法規の他に過去の法規にまで遡る必要がある。さらに、既存不適格証明や検査済証の再取得・大規模な修繕等の、不動産価値を向上させていくための再生特有のフローが求められるが、その過程で法規基準のズレから生まれる要素を、新築では生み出せない建築的価値として拾い上げ、トータルで”サイセイ”することを提案している。その一部を断片的にまとめ、相対化することで、再生建築研究のタネとしている。

 

3.再生の手法

 再生建築研究所では、減築の耐震補強や法適合により生まれる余白に価値を与えることに取り組んできた。耐震補強のような技術的部分を土台として、建物単体だけではなく、計画敷地の周辺エリアに対しても意識が向いている。サイセイにより生まれる余白は、納屋や土間のように、日常の生活や生業を豊かにしながら、都市に還元されていく。  

 これらの土台となるのが、図面や構造計算書のない建物における構造調査や復元調査である。これらの調査も他の要素と同等に再生建築をつくるものとして、帯として表現した。

 

4.再生の地図

 再生建築研究所がこれまで計画を行った場所の航空写真を収集した。 「表参道の裏、商業が点在する住宅街」「山と海に囲まれた地方歓楽都市」「多様な文化と開発で変わり続ける都市」「農村集落の歴史を持つ東京の住宅街」「経済と文化の間、恒久な神社と緑地」「皇居外縁、中高層ビルが列をなすオフィス街」多様なコンテクストを持つ場所で最適解を模索しながら設計活動を行っている。

 

 

什器

 

 模型の展示什器は、会期中に工事を行っている現場から持ってきた廃材から製作した。

 

 

おわりに

 対談や来場者との対話を通じて、私たちにとっての「サイセイ」「再生建築」の捉え方や、これから向かっていく先についてのヒントになるような考え方や言葉を頂くことができました。来場してくださった方、展示協力いただいた方、これまでも、そしてこれからも再生建築研究所やプロジェクトに関わってくださるすべての方々に感謝申し上げます。

 

2023年 再生建築研究所

 

 

CREDIT
撮影| 長谷川健太

 

 

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