サイセイのストーリー
佇まいや染み付いた記憶、
まとう空気を引き継ぎながら、
時代に合わせて
生まれ変わらせる
企業価値を高める
建物そのものが企業の価値として発信される。そんな場所を「サイセイ」の概念によって作り出す。私たちは、単に建物の価値を高めるだけでなく、その建物が持つ背景や歴史を継承していくことで、そこにしかないストーリーをもたらす。
こうしてサイセイが生み出す場所やストーリーは、そこに入る人々や企業のアイデンティティとしてたたずみます。
例えば神南1丁目ビルは、都内でも有数のカルチャー発信地であり、ファッションやアート、音楽、さまざまな時代の最先端がうまれる瞬間を見守ってきた渋谷に立地している。そんな場所に建つ、築40年超えのビルを私たちはサイセイした。元々地上階には飲食店、地下には数々の著名なアーティストを輩出してきた伝説のライブハウス「エッグマン」が1981のオープン当時から入居しており、この場所から各時代の音楽文化を発信してきた。
しかし、音楽文化は時代を超えることができても、建物は老朽化や耐震基準に満たないなどの理由で時代から取り残され、壊されてしまうことも多い。そこで積み上げてきた再生建築のノウハウを用いて建物を再生し、その場所で生み出されてきた文化を継承することを試みた。
通常、耐震補強というと、柱や壁を追加したり、バッテンブレースを窓枠にはめたり、肉付けすることが多いが、大胆な開口を設けて、建物をダイエットさせる減築をすることで耐震の安全性を確保した。その過程であらわとなった、コンクリートの外壁がそのまま顔になるような、再生ならではのゆらぎをもった表情が生まれた。
工事中、地下のライブハウスは営業を続け、「居ながら再生」を行った。こうして「エッグマン」が築きあげた文化が残っただけでなく、再生後に建物のコンセプトに共感したAmazon Musicが1棟借りでスタジオを構えた。歴史あるライブハウスと最先端の音楽配信サービスという違った形の音楽文化が、一つの建物の中で時間か超えて共存し、これからの音楽文化を築いていく。
まちを育む
再生建築研究所がサイセイするのは、建物だけではない。新築・再生・リノベーションを掛け合わせることによって、人やまちの賑わいのきっかけとなり、そのきっかけが波のように周りに広がっていく。そうして都市の中に存在する見えない境界を「サイセイ」によって融解していく。
海と山に挟まれた日本有数の温泉地、別府は、そこかしこで湧き出る源泉、増改築が繰り返された民家、かつての花街の名残がある通り、なんとも味わいのあるまちなみが続く場所である。
そんな魅力のあるまちなみにできるだけ寄り添うことから計画はスタートした。現地には分室を設けてスタッフが常駐し、まちに入り込んで徹底的に周辺をリサーチした。新築ホテルが建ち、観光客を囲い込むことで街が廃れていくのではなく、まちとホテルが互いに依存しあい、商店街がいきいきとサイセイしていくといった理想の関係を探った。実際に地域住民は井戸端会議をしている光景と、訪れた人々が街に繰り出す光景が共存している。
新築のホテル「アマネク別府ゆらり」を起点とし、隣接するビジネスホテル「アマネクイン別府」、ホテルの開業準備室としての役割を経て、商店街にある木造の住宅兼店舗「旧エルザ」の3つの建築の設計を行った。これらの設計をしていると、商店街の別の店舗からも声がかかり、住宅やラーメン屋も手掛けることになった。資本による規模の大きなプロジェクトと、生活や身体に近いスケールのプロジェクトを同時に設計していくことで、新しい地域のサイセイに取り組んでいきたい。
変わり続ける
「サイセイ」は、失ったものを取り戻すのではなく、それを引き継ぎ、時には形を変えて未来に引き継ぐこと、つまり変わり続けることでもある。私たちの社会は、秒単位から年、そして半世紀、世紀単位で変化し続けている。そして、流れ続ける時間は記憶や歴史として残り続ける。
ただ単に「保存」するのではなく、これまでの歩みを読み解いた上で新たな時代に向かって「変わること」も許容することで、長い時間軸の紐を繋いでいく。
1957年に誕生した当時のミナガワビレッジは個人邸であり、東京オリンピックを経て、アパートとして使われていた。かつてのオーナーによるDIYで、大切に育てられた築庭は四季折々の緑に彩られ、表参道という都市にありながら、周囲の騒音と断絶された力強い、どこか懐かしい独特の雰囲気を醸し出していた。しかし60年経ったミナガワビレッジは違法建築であったため、残すことにいくつものハードルがあった。とはいえもうつくることのできないこの庭を残したいというオーナーの強い思いをかなえるべく、お庭を中心に新築では作りえない新しいコミュニティを生み出す建築と、そのしくみづくりの提案からはじまった。
残された資料がほとんど無い中、時には当時のスクラップブックを、時には昔の航空写真を手掛かりにしながら、考古学のように建物の履歴を読み解いていく。建物に住みながら設計することで、この場所を直に体感し、オーナーが子供の頃ここで走り回って遊んでいたという記憶に想いを馳せる。その地道な検証の積み重ねによって建物の素性を明らかにし、適切に是正を施し、新たな形でオーナーの想いやこの場所の持つ力を未来に受け継いでいく。
4棟からなる建物は、中央の庭に面した共用スペースと隣り合わせ、住まうテナントが自由に行き来ができるように工夫した。法的に必要な是正を逆手に取り、かつての建物の配置、柱、はり、そしてオーナーの記憶に至るまでを引き継いでいる。この場所に住まう住人とともに、夏には夏祭りを、冬にはおもちつきを。テナントはもちろん、地域の交流の場としてサイセイされた。多様な変化を受け入れ、「変わり続ける場所」をコンセプトとし、この先も生まれうる多様な関係からくる化学反応を、後世にも引き継いでいくことを願って表参道の地に静かに、時ににぎやかにたたずみ続けている。
文化をつなぐ
人々による言い伝えやモノ、そして建物や建物を囲う環境など、文化の継承には、さまざまな形が存在する。
「サイセイ」は、そこに存在する懐かしさや記憶を継承し、どこか古く、そして新しい場所を作り出すことによって、形を変えながらも文化をつなぐきっかけを作り出す。
1940 神社の創建当時から大切に残されてきた神池と庭には、都市域にありながら、四季折々の豊かな自然がいきいきと、大切に育まれてきた。そんな特別な風景を後世に残したい、という神社の想いをうけ、建物内のどこの階にいても、豊かな庭をゆっくりとたのしめるようにサイセイされた。例えば庭の眺めを遮らないよう、建物のなかに壁をたてるのではなく、建物のそとに補強の役割をかねたバルコニーが生まれた。プロジェクトのきっかけは東日本大震災に遡る。東郷神社は街に溢れた帰宅困難者の受け入れを自主的に行った経験から、「国難の際には人々を守り拠り所となる」よう、いままでも、これからも、神社が地域に開かれた場所であり続けたいという願いが込められている。ひとと自然が触れ合えるこの場所は、神事の催事場、結婚式場、ときには地域のマルシェや、ファッションショーなんかも行われている。
訪れたひとが安心して過ごせることはもちろん、人生の特別な1日を過ごしたり、日常の中で風を感じながらまどろんだりできる、都心の癒しの空間として、これからも引き継がれていく。